Vol.46 産後体調不良(産後うつ)に対する医療者の介入とは(漢方薬の運用も含めて)|泉州統合クリニック|高石市 漢方内科・婦人科・心療内科・精神科・内科・専門外来(ヨガ・食養生・鍼灸・アーユルヴェーダ)

院長ブログ

Vol.46 産後体調不良(産後うつ)に対する医療者の介入とは(漢方薬の運用も含めて)

2023年03月21日

医療介入者の立ち位置について

先のブログにて「そもそも産後は誰にとってもしんどいのだ」と書きましたが、「産後は誰にとってもしんどいのだ」と言う事を念頭において、医療介入者は「産後うつ病を治療する」という視線で関わるのではなく、母さんにとって安心安全な場所になるのだという立ち位置で関わる事が大切です。病院に助けを求めてやってくるお母さん達は、産後、誰かひとの助けを得られない、もしくは得られにくい状況にあるか、声を上げることは甘えだ、自分が弱いからだという考えから自ら助けて欲しいと言えず、体力を消耗し、疲弊しています。このようなお母さん達に対して、介入者は安心で安全な居場所となり、安心して心を休められる場所になることが求められます。つまり「治療する者ー治療をされる者」という上下関係ではなく、併走者となって消耗したお母さんの身体に必要なケアを行うこと、と言えるでしょう。この立ち位置を間違えてしまうと、ただただ疲弊していて、休みたいだけだったお母さんをたちまち病人にしてしまい、本人に病気になってしまったという間違ったメッセージを与えてしまいます。もちろん、ただ疲れているだけではない人もいますので、そこはしっかりと観察して判断する必要はありますが。

伝統医学的視点から産後の漢方薬を考える

上記の立ち位置をしっかり自覚した上で、過不足ないアシストが求められるのですが、伝統医学的立場から産褥期の身体を分析すると

 

  • 脾虚(消化力の低下)
  • 血虚(心の栄養、体の栄養共に消耗している)

 

となります。前のブログで腎虚も項目にあげていましたが、産後の消耗と消化力低下によって睡眠の質が低下することを考えると、腎虚は①と②に従属する問題と考えられます。その視点から、漢方薬のミニマルアシストは、四君子湯のような消化力を補助する基本処方をベースに(より消耗が酷い場合には真武湯を併用する場合もある)、四物湯の要素を基本骨格とした処方群(芎帰調血飲、四物湯、当帰芍薬散、温経湯)を併用することになります。もちろん、足元の保温など冷えない工夫など、基本的な養生を可能な限り行うこと、行えるような環境作りは必要となりますが。

身体からのアプローチ

産後に疲弊したお母さんは、身心共に消耗しており、その結果、身体的にも精神的にも危機にさらされています。その構図は身体の疲弊度が強くなっていて、より手厚い身体への手当てが必要ではありますが、基本的には院長ブログVol.39(身心のアクセル:https://www.longwood-senshu-cl.com/blog/entry495.html)、Vo42(身心の電力需給のお話: https://www.longwood-senshu-cl.com/blog/entry515.html)に説明してある内容と同じ構造をしています。ですから精神が安定するためにも、まず体から安定させなければなりません。もしここで、介入の順番を精神→身体としてしまうと、生理的な危機管理システムがマイナス方向に過剰反応することとなり、反って深みに落ち込ませてしまう可能性もあります。身体の疲弊状況を正確に診断し、身体に対して適切な介入を行い、身体を救うことを先行させながら、安心安全空間を提供することが、医療提供者にとって必要であると考えています。

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