院長ブログ
Vol.48 歯科矯正と消化力低下の話(消化力シリーズ1)
2023年03月26日
不調の陰に歯科矯正
今回は歯科矯正と体調不良について少し話したいと思います。
漢方内科にはあちこちの病院を受診したけれども不調の原因が分からず、長年苦労されている方が多く来られますが、不調の発端に「消化力」の問題が関係している事が多くある、というのは以前のブログでも書いたとおりなのですが、「歯科矯正」に絡む消化力低下について、案外多くの方が気が付かないでいることが気になったので今回はこの点について焦点を当てて書いてみたいと思います。
私は、初診で必ず聞くことがあります。それは、「不具合が始まった前後になにか新しく始めた事、不具合に繫がる心当たりはありませんか?」という質問です。不調が数年にわたっている方だともう記憶から消えてしまっていることもあるのですが、必ずなにか発端となる事象は存在します。お話しを伺ってもなかなかそのヒントが得られない時には、ひとまず体の診察を始めるのですが、「舌」を見せてもらった瞬間に「!!!」となることがあります。口を開けた瞬間に矯正のワイヤーが顔を覗かせているのです。そう言うとき、私は本人に聞きます。「歯科矯正をいつから始めましたか?」と。そうすると「あ!そうでした、矯正を始めたあとからですね。不調が始まったのは。」と思い出す。「ビンゴ!」です。やはり歯科矯正が発端だったというわけです。でも、ここで「歯科矯正」が悪いということを言いたいのではありませんから、しっかり続きを読んで下さいね。
歯科矯正と消化力
歯科矯正は、歯並びが悪い事が虫歯の原因になる、かみ合わせが悪くてよく噛めない、笑ったときに歯並びが悪いのが見えて気になる、などの理由で始めることが多く、一般的にはいったん始めると年単位の時間がかかります。最終的に歯並びが良くなること事態はとてもその人の健康にとってプラスになることだと思いますが、その途中経過において一時的に「かみ合わせが悪くなる」、「噛むのが痛い」などの理由によってよく噛めなくなる時期があり、この時に「よく噛めなくて食物を鵜吞みしてしまう」ことにより咀嚼機能が失われ、充分に消化出来ない状態が発生します。胃に噛まない食物がダイレクトに入ってくることによって消化の負担が増大し、長く胃の中に食物が停滞して、最終的には消化機能も低下します。消化力とは、「咀嚼機能」「嚥下機能」「消化機能」「吸収機能」「排泄機能」の総合力によって発揮されます。このどの機能が低下しても消化力が落ちて身心へのエネルギー及び栄養供給が低下します。エネルギー供給が低下することで、思考力、活動力が低下して抑鬱的になりますし、循環機能が低下することで冷えや凝りが悪化します。栄養力が低下することで、皮膚や筋肉を養う事が出来なくなって皮膚乾燥や脱力、筋肉痛が生じてくることもあります。
消化力低下を防止するために出来る事
このように、歯科矯正によって咀嚼機能が一時的にでも失われることを知っておくことで、その間、補うという発想が出て来ます。こう言う時には「漢方」療法は有効です。例えば、六君子湯、半夏瀉心湯のような処方を使う。咀嚼力を補う為に、刻み食にする。スープを作って食べるのもよいですね。ここで、野菜ジュースなどを食べるという選択をする人がいると思いますが、野菜ジュースは基本的に冷たい状態で飲む事が多いと思います。冷たい状態で胃に流し込むと、その事で胃腸機能を落とすことになりますので、やはり一手間かけて野菜スープにすることは必要ですね。このように機能が低下するときにそれを補うということは、健康のためには大事なことになりますので、身体のどこかに変更を加えようとするときには御注意下さい。
既に歯科矯正を発端として不調になって、時間が経っているときは
これから歯科矯正をする人は今まで説明して来たことを意識して頂ければ、不調を予防できますが、既に不調になってしまった人はどうすればいいのか?それは、不調になってからの時間の長さと、不調に対してなにをしてきたかが、関係してきます。つまり、どう拗れているかをしっかりと評価する必要があります。きっかけは、歯科矯正による一時的消化力低下だったにせよ、それによって引き起こされた不調が次の不調のきっかけとなり、不調が連鎖していくことによって問題が複雑化していくのです。この複雑化プロセスには、本人の性格的特性、嗜好や行動の癖、生活習慣、生活環境などが関わってきますので、まずはそれを読み解く必要がありますので、第三者の客観的視点が必要です。相談先は当院でもよいですし、当院と同じような考え方をした漢方医、伝統医学的施術をする人を探して尋ねてみてください。複雑に絡み合った糸のもつれを解きほぐしてくれると思います。
咀嚼の次の問題、嚥下については回を改めてお話ししたいと思います。ブログを時々チェックしていて下さいませね。