Vol.51 瘀血の色は腹黒さ?ー腹を割って出てくるものとはー|泉州統合クリニック|高石市 漢方内科・婦人科・心療内科・精神科・内科・専門外来(ヨガ・食養生・鍼灸・アーユルヴェーダ)

院長ブログ

Vol.51 瘀血の色は腹黒さ?ー腹を割って出てくるものとはー

2023年04月29日

腹を割って出てくるもの(腹黒い:腹はリアルに黒くなる)

腹を割って話をしよう、腹黒い、腹をくくる、腹に据えかねる、太っ腹と腹(肚)に関わる言葉は多いですよね。でも、このような使い方をする「腹」に一体何を貯めているのか?ってあまり深く考えたことがない人も多いのではないでしょうか。漢方医をしていると、診察上お腹を観察し、触診する機会が多いのですが、「腹はリアルに黒くなる」のです。「え?」と言う人も多いでしょうけれど、「あ!そうそう、何となく、自分の腹や家族の腹を見て、色が変わるなって思って居たけれど、なぜだか分からなかった」という人もいると思います。漢方では「瘀血」という概念があります。漢方の解説書には「血の滞り」「血流が悪い」というなんだか意味の分からない説明がついていて、なんじゃいな??と思われた方も多いと思います。でも、調子が悪そうな人が「黒い」って感じた事はありませんか?きっと一度や二度はあるのではないでしょうか。その黒さは漢方用語で言うところの「瘀血」が引き起こした変化と今までの臨床経験から私は考えています。そしてこの全身が黒いという印象は、不具合がある程度長く続いた結果、身体に起きる現象なのですが、「強い抑圧した感情」があると、お腹に茶褐色〜浅黒い色素沈着のような皮膚色変化が出る事があります。これを私はできたてほやほやの瘀血と呼んでいるのですが、例えば、「上司に命令されて、間違っていると思う事を無理にやらされている部下」、「本当は違うと思っていることを、伏せて話す時」「自分が耐えたら、うまくまわるのだ。自分が我慢すればよい」などの時、「怒り」「苛立ち」「悲しみ」と言った本来なら発散すべき、表に出すことが出来る感情をぐっと堪えて「腹に納める」と、臍の下、骨盤の下方から徐々に上に上がってくる浅黒い、茶色い皮膚の変色として現れてきます。でも、この手の変色は、出来たばかりなので変化しやすいため、ちょっと指圧したり、鍼をしたり、漢方薬(駆瘀血薬と呼ばれる種類のもの)を飲む事でさっと消えたりするものですから、「鍼で肌のくすみが取れた」、「漢方薬で肌が白くなった」などと宣伝に利用されてしまったりするのですが、理屈が分かれば、何のことはない。心が穏やかになれば自然と消えて行きます。ただ、同じ感情でも「恐怖」は、収縮して隠れようとする感情ですので、腹には溜まりません。「不安」も基本的に自己生存に関係する感情であり「恐怖」と連続する感情なので、これも腹に納めることはなかなか難しい感情です。事実「恐怖」には耐えるという言葉があてがわれますし、「不安」は納めるより解消するもの、ですよね。

腹を割って出てくるもの=感情の塊

腹を割ったら出てくるものは感情の塊です。そしてそれを溜め続ける事で、腹は黒くなり、硬くなります。腹が硬くなれば便通も悪くなり、身体は物理的にも重くなり、最後には「病」に発展していきます。逆に、この腹黒を外に出す時、必ず強い感情が出て来ます。私は、漢方医として通導散という便通をつける事で瘀血を浮き上がらせる事が出来る処方を使った時に初めてこれを経験したのですが、漢方薬を使わなくても、腹を割って話すことは、腹の奥底、骨盤の中にしまい込んでいた感情の塊としての瘀血が動くので、男女を問わず涙がでる、怒りが噴火する、大声がでるなど、様々な感情に伴う行動がでます。同時に本人にとって、また腹を割って話あっているならば、その双方に苦痛を生じます。つまりとてもしんどい作業になります。でも、そのしんどさ、苦痛に耐えて、自己と向き合い、相手と心の交流をし、その感情の裏に隠された本心をしっかり受けとめ合う時、真の心の交流が生まれ、そこに「慈悲」「愛」といった感情が生まれるのですね。

腹黒さを越えて

自分自身の感情を知る事は人生を豊かにするためにとても大切な事だと思います。その基本となるのは「体」です。「体を通して感情を感じること」、「体の体験を通して物事を理解すること」は、自分自身の感情と向き合う上で非常に大事なプロセスとなります。腹に溜まった抑圧感情を解き放ち、不完全な自分自身を受け入れる時、腹の皮膚に残された腹黒さが消え、「慈悲」「愛」による心の安楽、安心が身心を緩めてくれるのだと思います。私は修験道をする山伏の一人ですが、金峰山寺の蔵王権現が体で表している憤怒は、抑圧した感情の発露で、その青が表している降伏の意味は、抑圧感情を解き放った後の、自身の不完全性を受け入れた姿なのだと思っています。

 

今回は、瘀血と腹黒さをテーマにお話しをしましたが、皆さんも自分の体を見て、自分自身の抑圧した感情に少し目を向けてみませんか。自分の体と仲良くなることで、心が穏やかになることに気がつくはずです。

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