Vol.55 「不調はなぜ起きる」(シリーズ第1回)心と体の関係を知る)|泉州統合クリニック|高石市 漢方内科・婦人科・心療内科・精神科・内科・専門外来(ヨガ・食養生・鍼灸・アーユルヴェーダ)

院長ブログ

Vol.55 「不調はなぜ起きる」(シリーズ第1回)心と体の関係を知る)

2023年07月07日

感情の働きや消化力の変化、環境からの干渉にさらされて変化する体、内面世界と不調の関係を理解しよう

日照りの夏に貯水ダムの水が足りなくなって、取水制限がかかる事がありますよね。皆さんは渇水で水が減った時のダムを見たことがありますか?ダムの水が減ると湖底に沈んでいた村の建物などが顔を出してきますよね。湖底の村が姿を現すとき、当時そこに住んでいた人々の暮らしが見える気がして、そして村を出て行かねばならなくなった人達の思いを想像して胸が詰まります。今回は、このダムに例えて身体の仕組みを説明してみようとおもいます。

ダムの例え

水面の高さは「(元)気のレベル」を意味します。ダムに水つまり、気を注ぎ込むのは消化力(脾胃)で、体を動かしたり、ものを考えたり、悩んだり、敵から防衛したり、環境変化適応したり、すべての活動はダムの水である気を消費します。湖底に沈む村は、本人の性格であったり、体質であったりとその人の現在の特徴と考えます。そして、気の需要と供給の差によって水面(気のレベル)は変化するとします。気がダムを充分満たしている時、水面は平らで湖底の村はなにも見えませんが、胃腸の消化力が低下して気の供給が減ったり、悩み事を抱えるとか危機に陥り慌てて自分を守る必要があったり、体を使った労働で消耗するなど気の消費が増えて気のレベルが低下すると、水位が下がり村の構造物が顔を出すようになります。図を見て下さい。PMSは水車になっていますね。月に一回転する二枚羽の水車です。月経と排卵日に水面上に姿を現しやすくなります。症状を軽くしたい、もしくは症状が出ないようにしたいなら、どうしますか?「水車を止める=月経を止める」「水車を小さくする=ピルを使う」「水面を高く保つ=養生をする、月経前は静かに過ごす」ことで、症状が出なくなることが分かります。この水車が回ることが、まったくダム(身心)にとって意味がなければ止めてしまえば良い、と言う事になりますが、もし、この水車が回って湖水がかき混ぜられることで、水質が良くなっていたとしたら?水車が止まるとヘドロが溜まって湖底の村が埋まり湖底が上昇し、水(気)を貯めておく容量が減ってしまう。伝統医学ではものが「滞る」「停滞」することを嫌います。滞りの結果、溜まってくるヘドロを漢方では「瘀血」と言います。実際に、長期的にピルを内服している女性を診察すると「瘀血」の所見が強くなっています。瘀血が溜まり気を貯めておく容量が減ると、その結果として身心に余裕がなくなります。この瘀血を浚渫(取り除く)、お掃除役をする処方を活血薬(代表的はものは桂枝茯苓丸)というのですが、普段から気が滞りなく循環する状態を保てていれば、瘀血はたまらないとも言えます。

頭痛の塔(変化する湖底の村)

再び、図を見て下さい。この湖底の村はあなた自身で生きていると想像して下さい。日々の過ごし方や行動の癖などによって変化していきます。図の左側に「頭痛の塔」がありますね。これは、その人によって「冷えの塔」だったり「眩暈の塔」だったりすると思ってください。日頃から、「気合い!気合い!」と体に鞭打って、自分を犠牲にして仕事や人の世話をしていると、頭痛、眩暈の塔がどんどん上に延びていきます。一方で、自己犠牲は消化力を低下させて、入ってくる水の量が減り、無理な身心の活動は消費をあげて常に渇水(気虚)の危機にさらされます。そこに梅雨や台風が追い打ちを掛ける、、。このような仕組みで、様々な体調不良が表に出てくるのです。

月経前の不調を自分自身の体調のバロメーターとして体の声を聞く人と月経前の不調を封じ込めたいと薬を飲む人の体の違いをこのダムで想像してみて下さい。そしてその状態を何年も続けた結果、どうなるのか?50歳になった時のダムの状態を見てひとは「更年期障害」と言います。自己犠牲に自己犠牲を重ねて体に鞭打って人に尽くした結果、体が消耗したとき、「不眠症」や「鬱病」とラベルします。春先から梅雨に掛けて増える「眩暈(メニエール)」もこの仕組みをイメージしたら意味が分かりますし、「気象痛」なんて呼ばれる様になった頭痛や身体痛の意味も分かります。寒熱という概念をちょっとこの図に載せなければなりませんが、夏に悪化する湿疹なども同じ仕組み。このように体全体をシステムとして理解することはとても大切なのです。

この仕組みを理解すれば、なぜ、五苓散が頭痛に有効で同時に抑鬱にも有効だったりするのか。六君子湯という胃腸の処方で元気がでるようになるのか。その意味も分かりますね。ですから、処方が治しているのではなく、身体とい気を貯めるダムに対してそれぞれの処方特有の働きかけをすることで、状態を変化させることが、結果として見た目の症状を見えない状態にしている、そう言う事なのです。

では、この自分自身である「湖底の村」を変えて行くにはどうすれば良いか。それについては、次回にお話しします。

 

(続く)第2回:https://www.longwood-senshu-cl.com/blog/entry635.html

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